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 昔、初めてヨットに乗った時すごく印象的だった。オーナー船長が、メイン・セールを上げると同時に艇が大きく傾きビックリした。そのまま横倒しになり、沈没するのではないかとおどろいた。思わずその辺にあるワイヤーの様なものにしがみついて船長を見た。オーナーのA氏は手なれた様子であちらこちらのひもや、舵棒を操り艇を走らせている。船長は活き活きして彼方を見つめている。その間も船はずっと傾いたままだ。しだいに艇速が上がり始めると、船尾はぐっと沈み込み引き波を立てはじめた。天気は悪く波もあったがヨットはかしいで波を斜めに突っ走った。風が吹けば吹いた分力強く傾き走った。釣り船の乗合船はよく乗ったことがあるが傾いては走らない。これが風で走るヨットかと思った。しかも荒荒しい。いっぺんに虜になった。

 そのヨットのクルーとして何年か乗せてもらった。ほんとに楽しかった。人生のターニングポイントがあるとすればセーリングとDR・A氏に出会えたことだ。DR・A氏のおかげだと今更ながら思う。たいへん感謝しております。そのA氏が船を買い替えるとのことで今まで乗っていたヨット・スカンピを手放すことになった。当初は嘉手納マリーナの外人さんあたりが問い合わせてきたそうだ。自分も欲しかったが手が出る値段ではなかった。しかし、言ってみた。「欲しい」 とするとオーナーA氏は言った。・・・「解った」・・・・・。

 あこがれのクルージング・ヨット30フィート、あの名艇スカンピを、無理を言って手に入れた。嬉しい、すごくうれしい。しかし問題があった。肝心の、ハーバーに置く係留権や係留費が無かった。これは問題だった。そこで、とりあえず、南部にある知り合いの畑の片隅に保管することにした。保管場所の畑に、陸上輸送するには、ヨットは背丈が高すぎるのでキールや、マストを外さなければならない。

 ヨットのキールなんて外したことなんてないし、マストを倒したこともない。一人で試行錯誤しながら、4トンクレーンを操り、マストを倒し船体に括りつけ、キールも船体から分離させた。こう書くと簡単に見えるが、まるまる3日間、日が暮れるまで作業時間がかかってしまい、最後の晩は高熱を出してクタクタになっていた。

 

 船台は、陸送用に鉄工所へ特注してあったので、それを、ハーバーに運び入れ、移動輸送用の低床8トントラックや20トンクレーンを業者に手配し、南部の畑の保管場所へ運び入れほっとした。移動の途中、なんどとなく陸橋の下を通過するたび、首をちじこめ上を見た。ヒヤッとするほどヨットと鉄橋の間隔は余裕がなかった。

 なにが疲れたかというと、キールやマストの脱着作業の段取りや、業者への手配がめんどくさくてエネルギーを費やした。当時は、事務所を開業してまもなくだったので飯が食えるほど収入があるはずもなく、夜間は、夜警(ガードマン)のバイトをして食いつないでいた。何日も休むこともできない。休む理由を 「風をひいて熱が高いので休ませてほしい」 と適当に伝えて、ハーバーで作業していたら、熱中症になりほんとに熱がでてしまった。バイト先に出社したとき 「よく日焼けをめされ、リゾートで、お風邪をおひきになられたのですね?」 と方言で皮肉を言われたが黙っていた。

 夜警(ガードマン)の仕事は、朝9時ごろ終わった。ガードする現場は特に決まってはいなかったが建設現場が多かった。なんとか団地現場とか、ニュータウン何とか、といった現場が多かった。その現場は、完成まじか、なので建設業者の事務所や管理事務所等はすでに撤去され、トイレや仮眠室などは無かった。真っ暗で人っ子一人いない、だだっ広い、現場を巡回していると、血統書付きのしつけの成っていない、大型犬に脅されたこともあった。

 飼い主が駆け寄り、取り抑えるまで、グルグルと後ろを取ろうと回りこむ犬独特の低い姿勢の攻撃にはふるえた。それからは巡回のとき必ず、ヌンチャクを制服の右袖の中に隠し持ち、あの馬鹿犬が土煙をたてつつ、突進してきたとき、覚悟を決め足を踏ん張り待ち構え、スッとヌンチャクを袖から滑り出したら、あのバカイヌは急ブレーキを掛けふんどまり、いつもより円の半径を大きめに回込んできた。奥歯やキバを見せ吠えまくりながら後ろを取ろうとしたがヌンチャクが届く範囲には近寄らなかったので、怖くはなかった。当時、バイトの警備員は警棒を携帯することは許可されていなかったので、あれ以来自衛のためヌンチャクを隠し持つことにしていた。

 そんなこともありながら警備巡回をしていたが、たまに、大○をもようしてきたことがあった。仮眠室も無い、犬にも脅され、トイレも無い現場に配置され、頭に来ていた。しかし無いものは仕方ない。そこで、第二建設用地の草むらに入り込み、ハブを警戒しながら、かがみこんで用を足したことがあったが翌日その建設用地の雑草を建設作業員が駆動芝刈り機で刈り込み始めていた。おそらく、作業員のみなさんは運が就くか、これから就くと思われたので、急いで、その現場から離れたのを思い出す。運が飛び散らかるのはあまりよくない。

 夜警(ガードマン)のバイトの帰りは、毎朝、畑に保管してあるヨットに立ち寄り船内の改造をしていた。畑とはいえ電気も水道もあったので艇内に引き込み、扇風機や電動工具や水洗トイレなどをちゃんと装備して快適だった。船内の内装の材料は出来るだけチーク材を使用して樽の内側をイメージして作り上げた。有る程度仕上がると、見た目は、木造艇かと思うほど落ち着いた雰囲気が出てきていた。

 作業の休憩の途中、キャビンに張ったチークを、なでまわし、木目を見つめていつかは、この船は再び海に浮かび、高いマストに大きな白いセールを上げ、夕日が沈む水平線に、かしいで向かう、美しいヨットのイメージを思い浮かべてはニンマリしていた。ヨット・スカンピは後ろ姿がとくに良い。大好きなヒップラインだ。海に早く浮かべ見たい。尻振る姿が早く見たい。だが、現実は、モクマオの葉がデッキやコックピットに厚く溜まり、朝顔のツルはスタンションに絡みつき、コックピットの片隅には、何かの草の双葉が生えてきている。 

 「こんなことをしてていいのだろうか?」 事務所を開業したものの、夜警をしながら事業をうまく軌道に乗せることは出来るのだろうか?不安だ。ヨットの改装などをしてて良いのだろうか。

 良いのだ。してて良いのだ。開業したての事務所は仕事が無い、ひまでしょうがない、やることが無い。はじめての仕事は、何をすればいいのか解らないのだ。一つ一つこなしていくしかない。それに夜警のバイトと事務所との往復だけでは精神的に煮詰まってしまう。バイト帰りに船に行きその後、事務所(自宅)へ帰る。ワン・クッションあったのが良いと思った。良い気分転換になった。

 そんな事情なので、船の改修作業は、急速にはかどった。約8カ月ほどで内装工事は完ぺきに仕上げた。キャビンの中は、木材のチークの香りでいっぱいだ。どこからみても木造艇に見えるし、中にいると落ち着いた。一番落ち着く空間になっていた。

 夜警(ガードマン)のバイトは、11カ月間ほどで止めた。冬の寒さの軽自動車の中で震え、春が来て夜空を東に飛んでいく夜ガラスを仰ぎ見て、夏のガジャンと蚊取り線香にむせび、秋のススキとお月さまが大きくなり始めたころ夜警をやめた。阪神の大地震のニュースを、早朝カーラジオで聞いて驚いたのもそのころだった・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 やはり、夜警の仕事は無理があった。きつかった。体の調子が悪くなっていた。本職と夜警、どちらもどっちつかずとなっていたので事務所に集中することにした。夜警の仕事は中途半端では務まらない。

 ヨットは、その後、畑から、糸満市の船舶専門の業者さんの敷地に移動して、しばらく保管してもらっていた。その間に宜野湾マリーナへ係留の申し込みをしておいたが ある日、「陸置きの空きが出た」 と連絡がきた。飛び上がるほどうれしかった。しかし艇は走れる状態ではない、業者さんに、大急ぎでマストとキールを取りつけてもらい、糸満市の西崎港まで工場から牽引し、ようやく糸満の海にヨット・スカンピは再び浮いた。念願の夢見た日が遂に来た。

 宜野湾マリーナの海から陸揚げ、糸満・西崎港の海にスカンピが、再び浮かぶまで1年と6カ月。待ちに待った瞬間だった。糸満市・西崎港の片隅の岸壁に艇はもやいをとった。

 艇も、嬉しそうに漁船の引き波にあわせて尻をふっている。が、やがて、はしゃぎすぎて岸壁にガンガン船体を当て始めた。大急ぎで、フェンダーをかましたが、西崎港の岸壁は高く、大型商業船仕様になっているので、どうもうまくフェンダーが良い位置に収まらない。フェンダーあるだけ全部岸壁側に吊り下げたら多少良くなった。しかし、たまにドスンと当たるので思わず、牡蠣だらけの岸壁に両手をついて押しつけ放したりしていた。そういった艇を気遣うところは、新米ヨットのオーナーとなり始めていた。

 船内に入ってみると、陸にあった時との船内の雰囲気が全く違う、スライド・ハッチから仰ぎ見える景色は高いコンクリートの岸壁だ。右の窓には、低い海面の向こうにバージ船や防波堤が見える。畑のモクマオや、茂りすぎた朝顔の葉っぱなどは、もう見えない。艇はゆるく縦・横に揺れている。張り付けたチーク材の雰囲気も明るい光線に映えている。嬉しい。ガキのようにバウ・ハッチを開けては、意味もなくそこから抜け出たり、入ったり、デッキを歩きまわったりした。

 畑ではデッキの上に寝かされたマストが邪魔でこうは歩けなかった。マストやリギンが立てに立っているのが嬉しかった。YSエンジンも調子よく冷却水を吐き出している。すべてが順調。

 だが、ゆっくりしては居られない。今日、宜野湾マリーナへ廻航しなければならない。いろいろ準備をしなければならない。しかし、不安なことがある。自分は、この艇に何年か乗せてもらっていた。が、ゲスト・クルーに近かった。ほとんど舵を握ったことが無い。セールUPもオーナーにいわれるままに準備したりしていた。セーリング操作に関して関心は、高くなかった。もっと意識を高く持って乗船しておけばよかった。ゲスト感覚で乗船し艤装関係をオーナー任せにして、ビールをかっくらっていたツケがいま来た。

 更に問題なのは、自分は数年前、糸満漁港で釣りをしたことしかない。糸満から出港したことが無い。出口がはっきりしないし、あのへんだろうとしか解らない。当時の西崎港は工事ラッシュで防波堤などの位置が延長され出口の見当がつかなかった。

 しかたない、頼れるのは誰もいない。艤装を始める。まずはメインセール・バックをキャビンから引き出し、思い出し・思い出ししながらセールをブームにセット。ジブ・セールはハンクスなのであらかじめフォア・ステイにセットして港を出てからあげることにしよう。

 キャビンに潜り込み、キングストンOK、ビルジOK、エンジンルーム点検、エンジン・オイルOK,ファンベルトOK、燃料OK、燃料計は透明のホースが縦に接続されており一目で残量が割るようになっているが何リッタータンクに入るかは、確認していなかった。とりあえず、すべてOK。セル一発でYSエンジンは、排気音をだして回転している。YSエンジンは単気筒ロング・ストローク独特の低回転で回っている。フライ・ホイールの慣性回転で回されている感じだ。

 「ヨッシャー出港」気合を入れてギヤを前に倒す。艇は、多少急いで岸壁を離れた。エンジン回転がちょっと高すぎた。元に戻す、エンジン止まる。慌ててセル・ボタンを押す。回転上がる。汗だくになる。岸壁で手を振っている家人、子供たちが小さくなっていく。今日は、中止して帰ろうかと思ったりするが、ぐっと我慢して港の真ん中を抜けて行く

 初めての操船で宜野湾までたどり着けるだろうか?超初心者新米オーナーはなんとなく心細い。・・・・・・・・・

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 西崎港の真ん中を通過し、ある程度いくと、漁船が都合よく入港してきたが、南や西の方向から好き勝手に入ってくる。良く見ると入口が二か所あるようだ。その分、赤ブイ青ブイが数多くあり意味が解らない。そこで、西側から入港してくる漁船にあわせて舵をとっていたら、次第に出口が解り始めた。青の1番ブイ、赤の2番ブイが確認できた。

 ほっとする間もなく、メイン・セールの上げに係るが、風は陸風、艇を風に向けなければ、セールはスムーズに上がらない。となるとリーフに向かい艇を進めなければいけない。スカンピは、メイン・セールを上げるときは、マストの位置まで行かなければならない。メイン・セールを上げる為の、ウインチがマストの根元にあるからだ。

 エンジン回転をやや高めにして、艇を風に向け あるていど行き足がついたところで、すかさず、ウィンチ・ハンドルを握りしめ、デッキに這いつくばるように、移動しながら、マストまでたどりつき、メイン・セールを上げるロープに体重をかけ、セールUPする。そうしているうちにも、艇は、リーフに突き進んでいるので、大急ぎで作業をすませ、バタバタとコックピットに戻り、ほっとした。と思ったら、ウインチ・ハンドルをマストの根元に忘れてきたので、またしてもバタバタとデッキを移動し、ハンドルを回収し元に戻る。

 息は上がる。どう気はする。少しめまいもする。のどもカラカラになっている。たかだかセールUPだけでこんなにも大変だとは思わなかった。やばいところに向かっている分緊張したかもしれない。ドキ・ドキが鼓膜で聞こえた。

 ようやく、メイン・セールUP完了。いったん仕切り直しの為、艇を沖出し再び風に向ける。今度は、ジブセールを上げなければならない。ジブ・セールを上げるロープとウインチは、コックピットにあるのでデッキを移動しなくても良い。それでも、もたもたしていると艇は、座礁してしまう。急いで、ロープを引き込んだ。ジブは。するすると上がっていった。

 ジブ・セールは出港前にあらかじめセットして置いたので楽だった。ジブ・セールはヨットの前に掲げるセールなのです。マストのてっぺんから舳先に、直径6ミリのワイヤーが設置されている。そのワイヤーにセールを取りつけるが、少し特殊な金具で取りつけるのです。犬のリードの先に付いている金具がありますが、それとそっくりなのです。「 ハンクス 」 と言うらしい。それが、△のセールの一辺に十数個取り付けられているのでそれを、ワイヤーに一個、一個セットすればセールをUPする時スムーズにスライドして△は上がっていく。単純だが抵抗なく効率が良い。

 ジブは、するすると上がっていったが、どうもおかしい。セールが逆▽に上がっていく、 「しまった。ジブを逆にセットしたらしい。△のはずが、逆▽になっている。」 これではダメだ。しかし、再セットなんて海上では もう したくないし余裕もない。

 急いで舳先に、どたばたと行って、ジブを掻き下ろし、そのまま、デッキの一部にくくりつけた。この際、メイン・セールとエンジンだけで宜野湾マリーナへ向かうことにしよう。素人が、フル・セールで行こうとしたのは間違いなのだ。機帆走なら少し楽なのだ。かえって良かったかも知れない。とポジティブに考え計画変更したが反省点もあった。 デッキを移動するときは、「 ワン・ハンド・ワン・キャッチ 」の基本を忘れていた。緊張と焦りで、艇のデッキ移動は、余裕なく。まるでマダカスカル・モンキーの道路横断のようだった。今後気をつけよう。艇の進水式日が命日ではしゃれにならん。・・・・・・・・・・・・

 

 ジブ・セールを上げるのは、そういうことで諦めた。気分を切り替え、艇を北の目的地の宜野湾に向ける。青の1番ブイや陸を右に見て舵をとった。メイン・セールは陸から風を受けている。その為 艇は左にヒールしている。機帆走なので意外に早い、舳先が波を切って走っている。

 いましがた、出てきた糸満の港を振り返り見てみたが、やはり、青ブイ、赤ブイが点在していて解りにくかった。早朝、艇を進水した西崎港の岸壁あたりはどの辺だっただろうと、目を向けたが、クレーンやら、工場の建物やらが乱れ立ち、やはり沖からは、解りずらかった。周りを見渡してみると、西の水平線の霞んだ海には、慶良間の島々が横に連なり重なって見える。その島々の一番北側にみえる島はおそらく前島や黒島だろう。島の形がまるで、チャップリンの、どた靴に似ているので見分けがつく。その北側の北西の方向には、かすかにチービシらしいのが霞んでみえる。たぶんあれがチービシだろう。

 それにしても糸満の海は青い、航路から抜け出るとしだいに深い青になる。透明度がある分、色が深い。宜野湾や、慶良間の海とは雰囲気がちがう、太平洋と東シナ海との端境なのでそうなのか。・・・・「海をなめてかかってはいかんぞ」・・と深い深い青を感じて緊張する。

 

 しばらくチービシを目指して舵を握っていると、次第に周りの海底の色が変わり始めた。おかしい、明らかに浅くなり始めている。沖に艇を向けて走っているはずなのに海底は、浅くなり、やがて、海底のサンゴ岩の溝などがはっきり確認できた。このまま突き進むと座礁する。「これではいかん」と180度転進、かなり戻った。もしもフルセールで航行していたらタックにとまどい間に合わなかったに違いない。1番・青ブイの近くまでもどった。ブイのある海底の深みの位置まで戻れば安心だ。

 

 しかし驚いた。「 なんで、なんで、沖が浅くなるのだ?」 緊張してのどもカラカラだった。船艇のキールが、浅い海底の岩サンゴに、ガリガリ当たり、艇が別の意味で傾いていくのを想像するだに恐ろしい。後にそのエリヤには「孤立障害標識」と言う黒いポールが立てられたが、その当時はまだ設置されていなかった。地元の漁師さんは良く知っていて「ムーキ」と言うらしい。岡波島の数百メートル西沖にあるので気をつけましょう。だが、その岡波島とムーキの間は、バージ船も航行するくらい海底は深いのです。

 

 浅い所を航行するのは、恐怖であり、もういやだ。出来るだけ西側に、さらに沖出しして深い深い青を走ることにする。浅い浅いトロピカルの青は緊張であり危険なのだ。深い深い青が安心であり安泰なのを学習した。

 中途半端な深さにある岩礁は、リーフの様に白波を大げさに立てないので解りづらい。多少風や波が有る方が、浅瀬は解りやすいのだ。特に夜間のべた凪時に、海岸近くを航行している時は、リーフすら目立たないので注意が必要だ。今後注意しよう。「浅い浅い海は・怖い怖いなのだ」。

 しばらく沖出しして転進、北に艇を向けて走る。天気は良好、お日様が気持ちいい、適度な艇のヒール、気持ちいい風。そして青い海。メイン・セールは陸風を受けチービシを目指している。やがて東の陸に飛行場が確認出来た。ジャンボ機の尾翼らしいのが見え始めた。「 ようやく行程の半分は来たぞ 」。ちょっとホッとする。ペット・ボトルの水をごくごく飲む。美味い。頭からかける。気持ちいい。少し、余裕が出てきた。出港時や、セールUPではバタバタしたがようやく操船に余裕が出てきてまわりの景色が見えるようになった。

 しかし、この辺まで来ると景色があまり変わらないように感じる。艇は、波を切って進んでいるようだが、陸地との変化がないのだ。陸の目印A点とB点の移動が遅くなっている。A点が早く移動すればするほど対地速度は速い事になるはずだがなかなか進まない。これは潮に捕まったようだ。進行方向から潮が強く流れているようだ。「なんだ~今日は大潮か?」独り言を言う。艇が進まないと目的地に着かない。到着時間が遅くなる。イライラしてくる。

 エンジン回転を上げる。船尾は、冷却水を吹き出し、回転高く黒煙を上げる。ysエンジンはディーゼル・エンジンでたった8馬力しかない。(3馬力と言う解説もある)単気筒・低回転でトルクもあり粘り強いが、高回転でスピードを出して走らせるエンジンではない。やはり無理をして黒煙を出している。回転を七分位にしておく。するとエンジンも落ち着いて回り始めた。やはりこれで行こう。焦りは禁物。

 無理はいけない。エンジンがいかれると宜野湾マリーナに入れない。マリーナの航路は、狭く東から西にやや長い。陸風だと真向かいの風で、セールは役に立たない。エンジンはいたわってやらなければしっぺ返しが来る。・・・・・・。

 以前、長距離航海者の艇で、お酒や飯を招待していただいたことがあるが、その時のよもやま話に印象が強く残ったものがある。

 「 水の抵抗は、ある程度速度が上がると、ベニヤの6分板を電動回転ノコで力いっぱい押しつけ切っていくのに匹敵する位抵抗が係る 」。とのことらしい。確かに電動ノコで厚いベニヤ板を切断する時、力ずくで押しつけても切断時間は一定となる。どうりで重いキールを腹にぶら下げているヨットのエンジンには、高回転・ハイパワー・エンジンは載せていない・・・・・・・・納得。

クルージング・ヨット スカンピ
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