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  「 おやかた~。マスト折れとーよー 」トウリョウからの夜半の電話。その日は、ここ最近、立て続けの大型台風接近で、うんざりしているところ、当日も強力な台風が本島を直撃し、返し風になり始めの暴狂風であった。



   その日の午前中ハーバーへ見回りに行ったときは、信じられなかった。なんと、われわれのカタマラン・ディンギークラブの会長、I氏の ホビー・キャット16のマストが前方になぎ倒され、地面に叩きつけられ2本に折れていた。台風接近時の東の風に耐えられなかったようだ。マストの根元がスターン側に足払いを食ったような感じでマスト・ホールドからはじき飛ばされ前方になぎ倒されデス・マストしていた。・・・バック・ステイの無い艇種は前方に倒れるようだ。


   幸い、自分の艇やトウリョウの艇のマストは無事であった。狂風にハル・フロートは激しくゆさぶられ、前後左右にかしいでる。シート・ロープやサイド・ステイはカンカン、ヒュウウヒュウと鳴り叫び、今にもちぎられそうであったがなんとか耐えていた。・・・我艇は、強風に耐えいつものようにマストは立っていた。しかし、安心はできない。大型台風直撃の場合は、後半の返し風も強力なのだ。


   「 デス・マスト 」・・これは、セーリング人生が終わったことを意味する。マストが手に入らないのだ。又は、よほどの予算がなければ調達は難しい(艇を買い換えたほうが安くつく)。古い艇なので生産中止の可能性大なのだ。本土に在庫があっても輸送してくれない。コンテナーに積めないので嫌がられる。(全長8m位ある)


    「 I会長、会長のホビー・キャット16。デス・マストしています。たいへん残念です。自分は信じられないです。しかし、目の前でマストは折れています。」・・・・会長に電話した。会長の返答があったはずだが、強風で聞き取れなかった。・・・ショックな出来事を報告し携帯電話を折りたたみ閉まったが、・・・・どこか他人事でもあった。




   その日自宅へ帰り、我が家の台風対策などを終え、雨風がプレハブ住宅の壁や屋根を叩く音や振動を感じながら、少しばかり晩酌をしながら部屋でくつろいでいた。そこへ、トウリョウからの携帯電話。


「 おやかた~。マスト折れと~よ~。」・・・トウリョウ


「 わかっとる。会長のマストが折れているのは午前中に連絡した。 」・・・おやかた


「 ちがう、アンタのマストが折れと~んよ。 」 ・・・トウリョウ


「・・・・・・? 」             ・・・・おやかた


「 オレんとの、マストも折れと~ 」・・・・トウリョウ


「 ほんとにおれのマストか~、 おれんとのマストがおれんているんか~ 」・・・おやかた


「 そうや~、おれんとのマストも折れと~。会長のマストも、アンタのマストもみんな折れと~ 」・・・・ トウリョウ


???・・・・折れのますとが俺とるのか?・・・そうや、オレれのますともオレれと~よ。


    もう、訳がわからない。少し酒も入っているので理解ができないでいる。冷静になって考えてみると。おれおれが折れ折れでみんなおれ折れとなったらしい。





   不幸なことに、われわれカタマラン・ディンギークラブのオール3艇がオール・デス・マストになったらしい。ハーバーに3艇しかない。カタマラン・ディンギーは、ことごとく潰され。足払いを食い、風になぎ倒されたらしい。全滅だ。・・そのまま膝から崩れ折れ、畳に額をつけたまま 「 おれのセーリング・人生は終わった。」と電話の向こうのトウリョウに低く吐いた。


   しばらく立ち直れないと思われる。力が入らなかった。なによりも残された艇、粗大ごみをどう処分しようかと思案していた。しかし、考えようによっては、海上でマストが折れなくて良かったかもしれない。マストが折れた原因は、電触なのだ。ステンレスとアルミの金属が20数年接触し、そこへ海水が入り込み電位差でアルミの金属が少しずつ飛んでいき肉厚が薄くなっていった。折れるべくして折れた。


   マストのリカバリー作業は、少し時間がかかりそうだな。なんとかしなければならないな。中古のマストを探そうかな。

あとで考えよう。明日できることは明日しよう。

・ 他人の不幸は・・・・・・・
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