☆ 瞬間の けだるさ

 4月にしては、あったかぽかぽかの、華の金曜日の午後2時ごろ、とある交差点で信号待ちをしていた。前車両は5~6台ぐらいが、のんびり信号が変わるのを待っている。左折すると空港の明治橋、なんとなくスローでゆったり、明日は、土曜日だ、といった感じだ。

 アクビの一つでも出そうな、けだるい雰囲気の中「ドン・・とマイカーに響いた。背中と首筋に衝撃がきた。「一瞬なにが起こったか解らない???」。 息が止まっていた。バックミラーには、白っぽい車が、車間距離なく異常に接近して停車しているのが写っている。車を降りて車両後部を確認してみると。リヤに相手のパンパーが当り、わずかに変形している。リヤバンパーがポリカ製なので変形したあと元に戻った感じだ。

 相手の運転手は、どんなやつだと運転席をにらみつけると、ようやく、ドアを開け出てきた。背丈は4頭身半くらい、昔は若かった感じの、妙齢の奥様が出てきた。紅葉カラーのヒラヒラ洋服に、足元は、かなり上げ底のお靴を履かれていたうえに。「ナ・ニ・コ・レ」といったファッションに驚いたが、ヘヤー・スタイルも普通ではない。

 パンチ・パーマを思いっきり伸ばしたあとブラッシングを一生懸命すると、そのヘアー・スタイルになるに違いない頭を、指グシで、直し 直し。完璧に描きました¥感じのお顔で、目をパチパチさせて寄ってきて 「すみまっせ~ん、・・・・あっ、という間だったさ・・だいじょうぶね~」 それから、自分方のフロント・パンパーを確認し 「たいしたことなくて、よかったさ~」 と片手でおれの左腕をさっとなで、さっさと運転席に戻りドアを閉め、ハンドルを握り締め、前方をみつめて動かなくなった。

 

 その間、一言も文句を言えなかった。一言も話が出来なかった。「あ、、」とも「う、うう」とも言う余裕もないほど さっと身をひるがえし素早く、運転席に戻った。

 

 前の車両は、すでに信号が変わり交差点をぬけていなくなり、後ろから後続車両がつなぎ始めている。1人ぽつんと追突現場に残された俺は、渋滞の張本人といった感じになってしまっている。しかたなく、あせって車を発進させた。ぶつけた車両を確認しようと後ろを見るとすでに、奥方の車はどこかへ消えていて見つけきれなかった。

 腹が立った。ひとことも言えなかった自分に腹が立った。手玉に取られた自分に腹が立った。一言 いいたかった。

 「おまえさんは、化粧しながら運転しているのか?。止まっている車にぶつけやがって。タランヌー、ヤナカーギー」と一言いってやりたかった。

 「バカ殿、みたいな、おしろいしやがって、そのメデューサみたいな頭は、なんなんだ」 と一言 いいたかった。

(メデュ-サとは・・ギリシャ産・Hydra目・Medusa科・okinawa妙齢俗・naha亜種を指す)。

 

 昔、とある待合室におかれている週刊誌をパラパラめくっていたら、高速警察隊が撮った高速道路での事故写真集のようなものが掲載されていた。悲惨な事故現場の写真集ばかりなので、斜めに見ていたがその中に、助手席側のダッシュボードに人間の顔らしきものが描かれていた。よく見ると車両が追突した衝撃で、女性がダッシュボードに顔面を強打した時に、化粧がそのボードに写り残ったものだった。当のご婦人は大丈夫だったでしょうか。

 みごとに写り込んでいた。白い丸い顔の中に、明太子のような口紅がベッタリとはっきり映り、鼻の穴もあり、目じりのシワもはっきり写り。まゆも写っていた。ひたいのシワも見事だった。 ・一瞬のアート  ・恐怖瞬間の描写  ・あっという間の出来事。

警察の事故担当者も 「これは、ア、アートだ」 と おもわずシャッターを切ったのでしょう。

 俺のくるまにぶつけた妙齢の奥方の顔がそれにダブった。(妙齢とは、奇妙な風体であり、ヘアースタイルは、斬新かつ大胆、これを見たものは一瞬息をのむ、年齢不詳の奥方のことを指す。)

 その生き物のマナコを見てしまうと、あっという間に金縛りなるでしょう。そして、付け爪の指先でササっと撫でられ戦意喪失となり、玉を取られるのです。

 

 

・追伸

 妙齢の奥方に車をぶつけられた場合、まんがいちにも、口論をしてはいけません。その何千倍も言い返され二度と立ち直れなくなるでしょう。この状況になった場合は、こちらから即あやまり、怪我はないかおたずねし、いくばくかのおサツをお渡しするのが対処法です。そのとき目を合わせてはなりません。もしも、目を合わしてしまうと、たちまち石物となり明治橋の川の底でテレピアと目を合わすことになります。それを十分 肝に銘じておきましょう。

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