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 まだ 宜野湾マリーナが暫定使用のころ、私はヨット・スカンピを海上係留し、デイ・セーリングや慶良間クルージングを楽しんでいました。そんなころ、陸上用保管場所の片隅に、見慣れないカタマラン・ディンギーがあるのを見つけた。ホビーキャット16とはあきらかに形状が違う。おそらく 製作メーカーが違うと思う。その長さは約16フィート位、細く長いけど いい形にふくらんだ、2本相対称のフロートをH型に、太くて丸い アルミ管2本で 横に硬くボルト締めしてあり、その間を、黒いトランポリンがピンと張ってあった。

 ディンギーには、不釣合いではないかと思うほど太く長いマストの中央部から、戦闘的な トラピーズのワイヤーが左右に2本ずつ垂れ下がっていた。なぜか メイン・ハリヤードとジブ・ハリヤードは タコひものように細かったのが不思議だった。ラダーは可変式でショック対応のようだ。センターボードは長く、重く、差し込み式らしい。とにかく、まるでプロペラ戦闘機ロッキードP38のようです。すごく印象に残ったのでカメラに撮っておいた。

 それから二三年後、ヨットの活動諸点を糸満に移動。糸満沖を走り回ったり、ケラマを南側から回りこみ、ルカン・安護ノ浦・安波連などにクルージングしていました(特に安波連の海の色が いまだに忘れられない。)が、このご時世、残念ながらスカンピの管理費・調達がしだいに難しくなり、しかたなく2007年2月売却致しました。

 船を手離すとよ~く解った。休日を もてあそんでしまうのです。なにをするにも気分が乗らないのです。十数年間毎週 休日は欠かさず船に触れていた者が海から離れると 何をするのか解らない。自宅で一日中 ごろごろ、ぐだぐだ、立ったり、座ったり。たまの 会話は「はらへったー、ひまだー、はらへったー。」こんな調子なので家人に「どこか行け。外に出て体を動かして来い。」と追い払われそうになる

 以前なら、毎週、ヨットに出かけ、船やエンジンのメンテナンスを一日中楽しくすごしていた。昼飯など かなり手の込んだアウトドア男の料理を わいわい作っていた。楽しかった。あ、楽しかった。

 「いかん このままでは、おれは、ぬれ落ち葉になりさがる。いかん いかん 海に戻ろう帰ろう。」それには船を持たなければならない。しかし、購入資金に余裕は無い。管理費も調達がむつかしい。それなら、維持管理が楽な船を探そう、いろいろ思案した結果 出た結論はディンギーが良さそうだ。

 それなら 購入資金も、そこそこだし。維持管理費も年間4万円でおつりが出る。以前の30フィートのヨットの年間係留代は26万円位だった。この差は大きい。ディンギーは エンジンが付いていないので 煩わしい船舶検査というものがない。そのへんにある手漕ぎボートと同じ扱いなのです。そのへんにある木切れを集めて 針金やひもで束ねて繋いだイカダと同じ扱いなのです。これは手ごろだぞ。出費が少ないのが良い事だ。

 

 どうせ 船を手に入れるなら、速いやつで本格的なほうがいい。それなら宜野湾マリーナにあった。戦闘機ロッキードP38似たカタマラン・ディンギーのような船が良い。そうと 決まったら俄然わくわくしてきた。

 さっそく 戦闘機p38に似た カタマラン・ディンギーのオーナーにお会いし。「私、以前からこの船に、たいへん関心がありました。もしも 譲って頂けるのでしたら大事にします。ぜひとも自分に面倒見させて頂きたい。」旨を正直に話してみた。すると「OKです。お譲りしましょう。」とのご返事。やった これで再び海に戻れる。セーリングがまたまた出来る。うれしい。さっそく 契約して握手を交わした。しかも、船のマストを倒すときオーナーも自ら作業をして手伝って頂いた。

 マリーナから糸満への搬出入のため、ユニック車4トンをレンタルし 1人でハンドルを握り、糸満フィッシャリーナへ運び込んだ。マストも倒してあることだし、この際、重整備をしてみようと思い、ハル・フロートやサポートパイプ、トランポリン等をすべてバラバラに解体してみた。結果は 全体的にいい状態で、ていねいに大事に乗られていたようだった。

 しかし、軽量化を意識してか製作メーカーは ハルをかなり薄く製作しているのです。指でハルを押すとジワっと凹むのです。アメリカ製は質実剛健が売りだと思っていたら、かなり、繊細な作りが出来るようで、平均して完成度の高い薄さなのです。たしかにアメリカズカップに参戦するだけに・・・・・・・・・・・。

 スカンピのハルの厚さに慣れている者には神経を使ってしまう薄さなので、フロート・ハルの外側と船底はファイバーで2ミリ程積層することにした。そうすればビーチングなど 多少荒く乗り回しても大丈夫でしょう。この際スピードより 気楽に乗り回すほうを優先しよう。早速、電気サンダーで表面のゲルコートを剥いでみた。驚いたことにゲルコートの厚さもハルの強度計算に入れていたようだ。さらにハルの硬さが ゆるくなっていた。そこまでハイチューンされたフロートだったんですね。

 ある程度の日数をかけ、二本のフロートの積層が終わり、今度は塗装にかかります。マリン・ペンキをフロート1本分に1リットル入り4缶を 業務用スプレーで3回ほど塗り重ねてようやく、積層と塗装メンテナンスを終了。カタマラン本体を分解した逆の順序に組み立てて、さいごにマストを立てます。これが、なかなか たいへんな作業となります。本来なら大人2人で組み立てられるそうですが、それはアメリカ人の上背とパワーの話。とてもじゃないが日本人には無理なことです。それほど、マストは長く扱いにくい、アルミ製とはいえ、やはり重い。クレーンを駆使してようやく設置完了しました。

 完全に 復元完了となり、ホワイトカラーのフロート・ハルは、周りの景色を反射し、さらに戦闘的に映えます。細いところは細くひかり、ボリュウムのあるボディは形よく光がふくらんで、眺めていて飽きません。顔を近づけ息をハアハア拭き拭きしてやります。こうなると速く水に浮かべて乗りたくなるのが人情、早速 スロープから船を降ろします。エンジンが付いていないので ポンツーンまでオールで漕いで一旦留めて置き。

 メインセールをセット ジブもファーリングして 初セーリングの準備はOK、ライフジャケットを装着 メインセールアップ。しかし「ああ イカン、だめだだめ。タイム。タイム。」セールを上げると同時に メイン・セールが風をいっぱいはらみ込んで 風下側のポンツーンに押し付けられた。フロートが「ギー ガリガリ。ゴリゴリ。」と音を立てポンツーンのデッパリにはまり込んでしまった。フロートとポンツーンの高さが ほぼ同じだったのも原因した。どうしようもなくコントロールが効かなかった。

 ようやく、船を安全に、出港出来るように体制を取り直し。キズだらけになったフロートに 海水をかけて撫で回してやったが 円くはじいた水滴が痛々しかった。気分をとりなおして、セールはメインだけセットしてポンツーンを離岸した。すると船はスーと進み始めたと思ったのは一瞬でやがてザザーっと水しぶきをおっ立てて走りはじめた。体がグっと後ろに持っていかれる感じに走った。

 港内の障害物をやり過ごし、外に押し出されて本格的に走ったと思ったら風上のフロートがフワッと50センチばかり浮いた。あわててティラーを押し付けたら、さらに 船が急激に切り上がりよけい浮き上がってしまい びっくりした。「イカン、今、沈をすると船を起せないぞ。起すテクニックなんぞはないぞ。」

 幸い沈をする前に、港に何とか奇跡的に戻り着き、ほっとして「これは、たいへんな、じゃじゃ馬を手に入れたぞ、先が思いやられるぞ。」と覚悟した。

 こうなると、サバイバルです。沈しても、1人で船を起して無事に港に、帰り着く方法を考えないといけません。いろいろ、横英文字のマリン・カタログなどを開いて見ると、カタマランの沈起しの写真がありました。それは、船のマストの真下に、2メートルほどの長さのバーを設置し、普段はトランポリンと平行に収納して設置、船が沈すると、それを引き出し、テコの要領で起すといったもののようです。1枚の望遠写真から判断するとそのようです。また 同じカタログの別のページには 女性が沈したカタマランを起す為、サンタクロースの袋のような物に海水を入れそれを背負い、ウェイトにして起そうとしているイラストがあった。このアイデアも頂きとしよう。

 

 さっそく DYIセンターに駈け込み、それらしい、応用となる物はないかと物色すると、ありましたね~。まず、海水を入れてウエイトの代わりにする 布バケツを見つけました。建設工事現場用の簡易ごみバケツで、直径45センチ高さ45センチ位の帆布バケツです。これなら40リッター位は海水が入るはずだ。しかも胴回りに鋼のスプリングが縫い付けられているので自立で 円筒形を維持しています。収納時は押し付ければ 平たい円形の面となります。これは良い。ちょっと強度的には不安なので後で補強しておこう。

 次はバーを捜します それはすぐに調達ができました。アピトンの4*4の角材で十分強度はあるはずです。それにサイドに張るロープ用のクリートなどを増設して 船に取り付けた。さらにバーの先端に帆布バケツをウェイトがわりに 吊り下げられるように 滑車を取り付けた。私の計算ではこの二つの装置を駆使すれば 船が沈したときでも起せるはずです。・・・と思います。 

 リカバリー装置が出来たので 試運転をしてみなければなりません。船を ポンツーンを横にふさぐようにして設置し、マスト・トップに取った ロープを対岸のポンツーンから 引っ張り強引に船を横倒しにします。ちょうどクレーン車のクレーンをまっすぐ直角に上げた状態で横に横転させる感じです。船は以外に軽く引っ張られ45度ほど傾くと、後は船自体が倒れこむように、海面に横倒しになります。もちろん、ジブセールもメインセールもセットしているのでそれが抵抗になり、マストが海面を打ち付ける衝撃は小さいようです。

 まずは、沈起し用ロープのみで 船を起す作業に入ります。フロートは 横倒しになりマスト・トップは海面に着いたままです。沈起し用ロープを 引っ張り出来るだけ体重を外側にかけて マストを浮かそうとしますが、マスト・トップはわずか2~3センチ水面から離れるだけです。このやり方では 絶対起き上がらないのを確信した。

 そこで バーをセットしてその先端に バケツを取り付け 海水をおよそ半分くらい入れ それと自分の体重を 出来るだけ外側に架けると、マスト・トップは少しずつ 海面から浮き始めた。メインセールは 海水をたらし引き上がり、ブームも水面から 抜けたと思ったら フロートとトランポリンが頭上からバッシャンとかなりの衝撃で被い倒れこんできた。立ち泳ぎをしているので、センターボードには気をつけなければならない。よし、これならいける。

 シングルで出港して沖で沈しても リカバリーして 帰港できる可能性が出てきた。それから 日を変えて合計6回ほど 沈起しの練習を繰り返した。確実に 起せることは出来たが、船を起した後。体力を使い果たし、船に登りあがることが、たいへんだと言うことも解った。

 すこし 自信がついたので、風がそこそこ吹いている日に、フルセールで出港し インリーフをクローズ・ホールドで突っ走っていたら ブローが吹いて あっというまにスタボーのフロートが浮き上がり ポート側に、沈したと思ったらトランポリンが滑り台となり海中にズリ落ちた。予想もしない時に、いきなり沈してしまい外海の冷たい海水に 思わず声を上げた。

 「まさか。これは夢だはずよ。」現実の外海は冷たく風が吹き。船を風下にどんどん押し流しています。水深は5~6メートル位なので 海底が澄んで見え、波紋模様の砂地や 岩サンゴが 風上側に 意外なスピードで流れていきます。このまま流されると 定置網か リーフにぶち当たります。それをやり過ごしても、左に流されればパースを抜け さらに深みの外海に 押し出されてしまいます。

 浮いている、フロートに駆け上り 沈ロープを用意し 起そうとしますが起きるわけがない。外海では、起しの練習などしたことがない。焦ってしまい、もう少しでバケツを流してしまうところだった。もしも、それを なくすとお手上げだ。船も急速に流されているのがよけい不安をかきたてている。一瞬 頭上を救難ヘリがホバリングしているという 縁起でもない想像をしてしまった。

 

 日ごろの練習なんて、なんの役にも立たない。それより メンタルな部分を鍛えなければ落ち着いて事に対処できません。いろいろ、じたばたしている内に、マスト・トップは風上に向かい フロートは 風下になった状態で トランポリンに風が当たりそれも作用して少しずつマストが起きはじめた。ようやく 船が起き上がったときには、15メートル位後方で、リーフの波が音をたてて砕けていた。それに まき込まれるとタマゴのカラのようなハルでは ひとたまりもなく 砕けてしまいます。

 起き上がった船に乗るのも、一苦労、残り少ない体力をふりしぼって、にじりのぼり、ようやく メインセールをブームにセットし、一刻も早く、この海域から離れようとするが、なぜか 船が走らない。後ろを見ると、あらゆるシート類やバケツがシーアンカーとなり抵抗していた。ハア、ハア、ゼイ、ゼイ息切れしながらも素早くシート類を収納し、とにかくリーフから離れた。

 カタマランディンギーを初めて見たとき「なんてシート類が細いのだ。まるで、たこ紐のように細いではないか。」と最初に思ったが。沈して流されて 理解できた。沈した時、出来るだけ抵抗にならないように細くしていたのです。それに、もうひとつ解ったのが、インリーフで沈してしまうと、どこから風が吹いても、リーショアになり ヤバイことになるのです。くれぐれも、初心者は、強風時にインリーフには、出港をしないようにしましょう。

 NACRAというカタマランはエキスパート・ジュニア・クラスが乗り回す船なのかもしれません。しかし いつかは このじゃじゃ馬を乗りこなしてみたいですね~。

 下記の資料は、沖で沈した時 たいへん苦労したので沈起しのヒントになる良い資料はないかと、探し出したものです。

 http://www.youtube.com/watch?v=wPzYJqRc8oM&feature=related

 

 

 

 

 

 

* カタマラン・ディンギー 沈起し
1985年、舵社発行 HELMの本の中に、カタマラン・ディンギーの貴重な資料情報がありました。橋本健作氏著から以下のカタマラン・ディンギーが沈した場合のリカバリー方法を抜粋掲載させて頂きました。
カタマランとモノハルの大きな相違は、カタマランは強風(8m/s以上)になるほど起こすのが容易になり、反対にモノハル艇は強風になるほど起こすのが困難になることである。主な理由は、カタマランの大きな面積のトランポリンが風圧を受けるためである。ホビーキャット16の場合、8~10m/sの風ならば50kgの体重の人間一人で容易に沈を起こせるが、4~5m/sの風では80kg以上の体重でないと起こせない。微風だと、トランポリンが艇を起こす助けになるに十分な風圧を受けられないからである。

沈を起こすに当って、まずメインシート、ジブシートのクリートによるロックをはずすこと。艇の浮力中心に近いところに、沈起こし用のロープを帆走に先立って用意しておく。トランポリンの裏側に数個のブロックをつけて、両舷の沈起し用ロープを帆走中邪魔にならないように、ショックコードで引っ張り込んでおくと便利である。

 そしてさらに、モノハル艇の先入観を切り替えないと、カタマランを起こすことに困ることになる。とくに、モノハル艇からカタマランに乗艇を変えたセーラーの場合は、モノハル艇での経験が長いベテランほど戸惑うことになるであろうが、カタマランでは、「セールを風上側にして起こす」のが基本型である。

起こし方A    完沈から艇を起こす------強風の場合

①セールが風上側に現れるように沈起しロープで引っ張る。

②トランポリンが風を受けて艇は楽に起き上がり始める。

③艇またはセールが、水面に対し45度くらいまで起き上がったら、ロープを手離す。

④近い舷(新たな風上側)付近のフレームかトランポリンにつかまって、反対側(風下側)に再び沈するのをおさえる。最後に風上舷から乗り込む。

・艇が起きる時と起きた直後に素早くつかまえないと、艇に置き去りにされる危険は、どの艇でも同じである。

起こし方B    風下側への沈を起こす------強風の場合

①風下側のハルのトランサム寄りに乗ってバウを浮かせ気味にすると、艇体の水中の抵抗中心がずっと後方に移り、トランポリンの風圧中心が変わらないから、艇体はバウを風下に振る水平な回転を起こす。バウが風下に向きセールが風に直角になると、水中のセールの抵抗を軸として艇体が風下に流されて、結局セールが風上側で胴が横転ししたまま風に直角となり、トランポリンに風を受けつつ帆立貝のかたちで安定して風下に流れはじめる。つまり、「セールが風上側」となるので、あとは上記のAと同じである。

 この点で、モノハル艇が「セールを風下側」へ回して起こそうと努力するのと全く反対であることに注意したい。

微風の場合

 風圧を利用出来ないので、乗員の体重に作用する重力による力のモーメントしか利用出来ない。このため、出来る限りテコの原理を大きくしてやる工夫をするほかはない。1人乗りの艇でも2人乗りの艇でも、重心を出来るだけ外に移す努力をする。

(イ)トラピーズ・ハーネスの利用 

沈起し用ロープを手でつかんで体を水平に近くするか、沈起しロープの先端に結びの輪をつくっておいて、これにトラピーズベルトのフックをひっかけることによって、体を重心を最大限外に移してやる。

 沈起しが不可能な場合

 沈起しロープが長すぎると、体が水に半分つかってしまうので、体に浮力が生じてしまい、体重が有効に働かなくなる。朕起し用のロープの長さは、十分慎重に測って決めておく必要がある。

もどる
http://www.youtube.com/watch?v=80mBnkAVyG8&NR=1
http://www.catsailor.com/power_righter.html