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 「親方、おはようございま~す。」  「おお~、棟梁 おはよう。」 工事現場の朝ではございません。日曜日のハーバーの朝です。私には、オヤカタと言うあだ名があるのです。十数年前、DR・A氏が私に、つけたあだ名なのです。なぜそのあだ名がついたのかは定かではありません。おそらく風体や人相からだと思います。それから今日まで呼び名は、仲間内ではオヤカタと呼ばれています。

 トウリョウと言うのは、カタマラン・ディンギー仲間のYと言うやつなのですが、私より若干年下なので「トウリョウ」と、あだ名を私がつけてやりました。それで互いに、「オヤカタ、」 「トーリョウ」 と呼び合っているのです。

 その、トーリョウとは、某大手・サ○ク○ーン九州の沖縄営業所・主任なのです、赴任して来たのはいいが、うらやましいと言うか、けしからんと言うか、20才近くも年齢が違う地元の若い、可愛い嫁さんをもらい、いまでは女の子と男の子も儲けています。この男がとにかく海が好きなのですね。なんでも、福岡にいたころは、会社所有の大型ヨットを操船していたらしいので、ある程度は、セーリングに詳しい。それにくらべると 私の場合は、セーリングに関しては、ほぼ独学です。そういうことでセーリング用語はあまり得意ではない。

 彼も、(ヤマハ製)・30年前の超オンボロ・カタマラン・ディンギーを所有しています。ディンギーNACRAより一回り小さいがその分、艇の入出港が手軽なのが良い。その艇に彼は、何を考えたのか本来は設計上設定されていないジブ・セールを増設した。微風のときや、タッキングには旨く作用したが風が上がり始めるとセールを増設した分オーバーキャンパスとなり、かっとび始める。フロートが短い分、へさきが波に突っ込みやすくなっている。

 

 ある日の日曜日、初夏、南東の風がサイド・ステイをヒュンヒユン鳴らしていたが、セーリングがしたくて、とにかく2人して出港した。お決まりの冷えた飲み物を積み込み沖に出た。浅瀬のサンゴを見ながらのセーリングは、それはもう楽しい。カタマラン・ディンギーならではのセーリング・コースだ。艇の下は水深1メートル位、テーブル・サンゴや枝サンゴが澄んだ海底の一面に生えています。珊瑚が生きている。綺麗だ。南国だ。オキナワだ。「オヤカタ~、サンゴが綺麗やね~」 「おお~、最高だな~。ト~リョウ、とりあえず冷たいのでも飲もうや。」 2人してカンパイ。  「カタマラン万歳。」   「ディンギー万歳~」・・・・・・・。  

 南東の風が多少強いが波はあまり立っていない。牧港方面の陸地が風裏となり波が立たないようだ。調子に乗り、残波岬方面に舵を取り、ある程度いくとタック、アラハビーチ方面に舵を取った。

 舵を握っているのは私です。艇は、アビームの風を受けつっぱしる。波しぶきをおったて後方に弾き飛ばしている。センター・ボードは水切り音をハル・フロートに共鳴させ ブ~~~ン と、うなりを立て始めている。前方からの波しぶきで目も開けられない、持っている飲み物の容器は、海水でいっぱいになる。サイド・ステイは ヒュンヒュン とさらに風音をたててきた。

 アラハ・ビーチ方面まで北上したら、風が上がってきたようだ。波も立ち始めている。そろそろタックしようかなと思った時、妙な波がたち、艇の舳先がその波に突っ込んだ瞬間ブレーキがかかったと思ったら、グンと船尾が持ち上がりそのまま前のめりになった。トウリョウは、その勢いで前方に転がり海中に落ちていった。。私も、時間差で前方の海中に投げ出された。「バウ・沈」と言うらしい。前のめりになった艇はやがて横沈になりマストがずぶずぶと沈み始めて、完沈となった。海中には、青白い逆三角形のメインセールがゆらゆらと海底を指しています。・・・・・縦沈は、横沈となり、完沈した。

 周りを見回すと、マスト・トップに取り付けたはずの完沈防止用の黒球が風下の波間に流れて見えなくなっていった。どうやら、マスト・トップが海面を打ち付けたときの衝撃でロープが切れたようです。発炎筒や非常食などが入ったサバイバル・キットも流されてしまっている。トーリョウもキョトンと海面に浮いている。完沈した位置を確認すると、アラハ・ビーチのはるか沖合いだ。ビーチの人がアリンコのように小さく見えた。リーフからかなり離れている。水深も20メートルくらいありそうだ。南東の風なので嘉手納基地の沖合いに流されているようだ。この状況ならとりあえずの時間はある。

 完沈なので水面に浮いて見えるのは二本の赤色のフロートと抜けたセンター・ボード位です。港に帰るには、この艇を起こさなければなりません。完沈なんて経験したこともない。基本どうりの作業をするしかない。メインセールをブーム・エンドから外し、ジブ・セールもフリーにする。沈用ロープを捜してみる。なんと役にも立たない飾りのようなものが設置されていた。短すぎて使えない。幸い、トーリョウは折りたたみナイフを携帯していた。「えらい、あんたは、えらい。」と肩を叩き褒めてやった。

 沈起こしロープをナイフで切ったり繋いだりして、ようやくセットして2人の体重をかける。二人の体重を合わせると約130kg、ついでに年齢もあわせるとヨワイ103くらい。不安定なフロートに、土踏まずで立ち上り、体重を風下側に、出来るだけかけるが、うんともすんとも変わらない。体力も無くなり始めたうえにバランスも悪い、、、互いに、かわりばんこに海中にぽとんぽとんと落ちる始末。そこで、一番効率よく体重をかける方法を見つけた。おんぶする様な形で体重を一点に集中させたら次第に起きはじめた。風上のハル・フロートが起きはじめて、やがて、マストとセールが見え始めた。ようやく横沈状態まで復元させた。ここまで起こせば後は、起こしの経験はある。もう大丈夫だと思ったら。そこからなかなか起きてこない。

 マストを良く観て見ると、横倒しのマスト・トップ下の穴から海水が30センチほどの高さにピューとふき出しています。なるほど、解った。マストの内部に海水が満タンになり、その分重くなったので起こすのが大変だったのだ。これでは、起こすのに四苦八苦するわけだ。海水が排出するのに時間がかかったが、やがてマストが起き上がりメインセールとブームも海中から抜きあがり始めたら、ハル・フロートがすごい勢いで落ちてきた。ようやくリカバリー完了。ほとほと疲れた。

 二人とも艇ににじり上り、ほっとした。セール等を再セットして港に向かうが、真向かいの風で波が立って来ている。クローズ・ホールドでタック・タックと帰港したが、クタ、クタに疲れ果てた。波しぶきをかぶりながらの二人の会話・・・・・・・・・・。

「ト~リョウ~ あれでも沈ロープを準備したといえるのか~。」  波しぶきを浴びながら。顔をぬぐいながら。にらむ。

「おかしか~。ちゃんと準備したつもりなんやけどね~。」  波しぶきを浴びながら。顔をぬぐいながら。ニコニコしている。

「テメ~ トーリョウ~ なして、マストに穴を穴をあけたんか~。」   波しぶきを浴びながら。顔をぬぐいながら。にらむ。

「あのくらいの穴は、よかろうと思いよったんよ~。」  波しぶきを浴びながら。顔をぬぐいながら。ニコニコしている。

「テメ~ トーリョウ~ 緊張感がなさすぎるど~」 波飛沫がバチバチ。

「とりあえず船が起き上がったから、よかやん~」 波飛沫がバチバチ。

万事がこんな感じである。・・・・・・・・・・・・・

 カタマラン・ディンギーは、方向変換(タック)が非常に難しい、細長いフロートが2本並んでいるので、その分、大回りとなり、スムーズに回転することが苦手となる。4輪自動車に例えると、内輪と外輪の差です。自動車の場合は、デファレンシャル・ギヤが旨く作動しスムーズに廻るが、カタマランときたら、まるで、4駆にデフロックをかけて、無理やりカーブする感じだ。方向変換すると同時に、スピードがガクンと落ち、やたら重い動きになる。

 特に、波がやや高い時は、舳先が叩かれ、回り込む途中にピタッととまってしまう。波も風も吹き連ねているのに、前方に向いたまま艇が、そのままじっとしてしまうのです。「?、?、?」 舵を、あっちこっちに向けても。頑なに、風に向いたままです。やがて、風と波に押されリーフや障害物に向かい、そのまま後退していくので、「ゲ~」と言って焦ってしまう。(後に、この状況になったとき、廻りたい方向に、ティラーをいっぱい押し付け我慢していると、舳先が行きたい方向に向いてくれることが解った。)

 前方進行方向には、イノシシのように、わき目もふらず突っ走るくせに、方向変換しようとすると、急におっ止まり、風に向いたままセールを激しくシバーさせ、ジタバタと駄々をこねる。そうしているうちに、舳先が回り込み、風を後ろから受ける形になると同時に、恐怖の走りをはじめる。そして、トウリョウと・オヤカタは・スリルで顔を引きつらせなければならないことになる。

 カタマラン・ディンギーは、エキスパート・クラスが操船すると、ウェイク・ボードを引っ張りながら疾走し、バウ沈するほどのパワーとスピードが出るのです。そんな船を、中年素人が「キャー、キャー」いいながら飛沫をかぶり、操船しているように見えるが、コントロールしているようで、していない。しているのは顔を引きつらせているだけなのです。非常に扱いがむつかしい。

 それでも、楽しいのは楽しい、毎回 ドキドキしながらトウリョウと出港する。激走して、タックと同時におっ止まる。ジャイブする。かっとぶ。サーフィングとなり操縦不能になる。そんな時は、センター・ボードを上げればいいはずだがそんな余裕はない。互いに見合って引きつる。その繰り返し。しかし、そんなに引きつってばかりはいられない。なんとかタックがうまくいくように、練習を始めた。

 

「いいか、ト~リョウ、いち・に・さ~んの合図で同時に体重移動してタックしよう。いままでバラバラに移動していたからな」。

「わっかりやした。オヤカタ~、いち・に・さ~んの合図で同時に体重移動してタックすればいいんやな~」。

「そうだ。いいか いくぞ。トーリョウ~。はい、タック用意~」。

「いち・に・さ~ん。オヤカタ~今です~」。「よっしゃあ、いくど~」。 

「やった ばっちりだ~」。 「オヤカタ~。調子よかやん~」。

  

   格言------- ど素人が、二人以上集まると、そこには、ルール(約束ごと)が生まれる。  ・・・・・・・・・・・by オヤカタ

 思いっきりスピードをつけ、トウリョウのカウント・ダウンの合図で舵を切る。艇が風に向かい大きく廻る。ジブ・セールとメイン・セールに裏風が入ったと同時に二人は、低く設置されたブームに頭を打ち付けないように、トランポリンにはいつくばり 「よっこらしょ」ハイ、ハイして くぐりぬけ反対側に移動し、再び、セーリング・ポジションをとる。舵を握っている担当者は、一度 舵棒を後方に放り投げ、移動後に舵棒を手にしなければならない。しかも、体重移動の際一旦 体ごと 後方を向きながらの作業となる。

 前方を見ていたのに急に、後方まわり右転身をした後、舵を握り直し、進行方向を確認し、波や風向きなど、周りの状況を確認したり、いろいろ短時間でやることがある。一瞬方向を見失う。なれないころは、見当違いの方向につっぱっしって あわてて進路修正していた。

 モノハル・ディンギー乗りの掲示板にこんなのがあった。 「カタマラン・ディンギー連中のセーリングは何なんだ。気持ちの悪いタックしやがって」。と・・・・・・・・・他人が見るとそう見えるかもしれないが、本人らは、たいへんなのでございます。

 それでも、楽しいものは、楽しい、だんだん、二人とも、意気も合うようになってきた。沖に出て、タックの練習や、スピンを出してみたり、三角に走ってみたりしたが、やはり かっ飛ばしたほうがだんぜんおもしろい。センター・ボードが ブ~~~ン とうなり始めると。 

「トーリョウ~。トラピレ~、ハイク・アウトしれ~」 

「オヤカタ~、トラピレ~ってなんやの~??」 トウリョウはハイクアウトしながら聞く。波飛沫バチバチ。

「あほか~、トラピル トラピレ トラピレバ~・・の、三段活用なのじゃ~解ったか~」。オヤカタは、口からでまかせを言う。パチパチ。

 

 実は、この、ハイクアウトが、なかなか大変なのです。垂れ下がった細いトラピーズ・ワイヤーにフックを架け、艇から海面に、ほぼ水平にせり出さなければなりません。かなりのスピードが出てハル・フロートが浮き始めるのを人間が重しとなり、抑える役目をするのです。低い目線に波が迫って来るので、スリル満点なのです。怖いのです。それを、トウリョウは「ニコニコ」してこなす。

「オヤカタ~ フロートが浮いとーよ~、ハルが浮いとーよ~」 トラピリながら言う。

「そ、そーか 浮いとーか~、浮いとーか~」 オヤカタは操船に必死なので、浮いているのか いないのかの確認もできずにいる。

カタマラン・ディンギーの醍醐味、片ハル走行とでも言うのでしょうか。フロートを浮かしてのセーリングが少しだけ出来るようになってきたが テクニックを使い思うように浮かすことが出来ない。と思うと、意識しないときにポンと浮いたりする。奥の深い乗り物です。

 あまりに激走するので余裕がもてない。前方の障害物との距離感がつかみにくい、トウリョウにトラピレだのタックだの指示を出すが基本的に前方の状況を優先するので頻繁に指示が変わる。

「トーリョウ~、ハルが浮きそうだ。トラピレ~・・・・もとい タック もとい ジャイブ。」

ハイクアウトに入るのに、若干準備がいる、そのスタンバイが終わると同時にタックいやジャイブと指示を出すオヤカタに,トウリョウは。

「アンタねえ。 オヤカタ~ トラピレだのジャイブだのどっちやの」 トウリョウが  半ぶち切れ。・・・・・・・・

「バカモン 前方をよくごらんなさい。前には、アンカー船が有り、左はサンゴの色が違い、斜め前方から優先船がきとるやないか~」

「・・・・・・・・!」  ---------「ニコ」

「・・・・・・・!!」   -------「ニコニコ」

 

 前方に障害物などがあると、(ほとんどリーフや船舶などですが、) かなり警戒をしながら、ぎりぎりまで走ることになる。できるだけ距離をかせいでおかなければ、タックの回数が多くなることになる。カタマランは、上り性能はあまり良くない上に、タックも気持ちが悪いほど苦手だ。短い距離でタックを繰り返すと目的地までに行くのにスピードは落ち、体力も落ちてクタクタになってしまうのです。

 そう言うことで、ぎりぎりまで距離を出来るだけかせぐ、「カウントいくつでタックする」と、トウリョウに告げるとトウリョウがカウントを始める。カウントダウンで例の手はずとなる。 障害物の距離を計算して、四つでタックとか、八つでタックとか指示を出していたが、ある日、十二でタックと告げた。トウリョウは、一つからカウントを始めた。やがて七つとなり八つとなったが、元来 気が短い性分の私は、カウントダウンまで待てなくて、おもわず、タックしてしまった。トウリョウはバランスをくずし にらむ・・・・・

アンタね オヤカタ~ 十二でタックと言うたやないの。いったいどっちやの」 トウリョウが  半ぶち切れ。・・・・・・・・

「す、すまん 待てなかった」。 オヤカタあやまる。

   格言・・・・・・・・ど素人が、二人以上集まると、ルール(約束ごと)を破るやつが出てくる。・・・・・・・・by トウリョウ

 

    

 

      

カタマラン・ディンギー セーリング
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初夏 宜野湾マリーナ
宜野湾沖、波なし、風あり。
NACRA カタマラン・ディンギーにて、伴走撮影。
チービシまでのセーリング
チービシ パート2